季刊 本とコンピュータ 1998年春号

出版社
大日本印刷
発行日
1998.4.10
メモ記入日
1998.5.9
〈メモ〉
 結局、一番面白かったのは、松田哲夫「印刷に恋して 第4回 最古の写真製版術が生きていた!」の、コロタイプ印刷の話かも……。やっぱり便利堂は凄いなあ。こういう技術を持った上で、展覧会の図録などでは、非常に質の良いオフセット印刷を提供して見せるわけだ。色に対する非常に細やかな心遣いの基礎に、コロタイプ印刷があることが、良く分かった。勉強になる。
 もう一つ刺激的だったのは、四方田犬彦「ヴィデオは映画研究をどう変える?」。多分、ここで語られていることは、ほとんどそのまま稀覯本の電子化にも言えることだろうから。
 稀覯本も、かつての映画と同様に、実物を見ることができる機会は少なく、幸運にも手に取って見ることができたとしても、時間は極めて限られる。そうした条件下で、多くの先達たちは、その徹底した記憶力によって、各地に散らばる諸本の比較を行い、書誌学の道を切り開いてきた。
 マイクロ化の進展によって、そうした状況は既に変わりつつあるが、電子化は、おそらく決定的な変化をもたらすだろう。各地に点在する諸本を、ディスプレイ上で、瞬時に比較することができるのだから。もしかすると、書誌学において決定的に重要であった、記述の方法論そのものも変わっていくかもしれない。研究者が、電子化の意味に自覚的であれば、だけど。
 そうそう、巻頭コラムの中の青山南「『バグ・ニュース』の頃」も、かつての読者としてけっこう嬉しかった。そういえば、連載の萩野正昭「異聞・マルチメディア誕生記」って、なんだか、『バグ・ニュース』っぽいよね。
 クラフト・エヴィング商会「「らくだこぶ書房」をめぐる9つのおはなし」も、楽しい。未来の古本屋、というアイデアの勝利。
 それにしても、「鶴見俊輔、インターネットを語る」のかっこよさよ。思想の言葉は、こうあってほしいとつくづく思う。偉大な本が成立した背景には、「偉大な欲望と偉大な人間関係があった」。まったくもってその通り。そして、それは既にここにはない、ってことも。そのことを、あまりにもあっさりと語ってみせる、かっこよさ。脱帽。
 ま、とりあえず、私の当面の欲望は、ボイジャージャパンのテキスト・ヴューアー、T-Timeが早く欲しい、ってことかなあ。開発裏話(?)「オン・スクリーンで読む電子の紙 全公開!「T-Time」革命」を読んでますます欲しくなってしまった。


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