知恵の樹
生きている世界はどのようにして生れるのか
- 著者
- ウンベルト・マトゥラーナ,フランシスコ・バレーラ
- 訳者
- 管 啓次郎
- 出版社
- 筑摩書房
- 発行日
- 1997.12.10
- シリーズ名
- ちくま学芸文庫
- メモ記入日
- 1998.2.15
〈メモ〉
いや、オートボイエーシスにこういう背景があったとは知らなかった。
システム論としてのオートポイエーシスについては、ちょっとは知っていたけれども、これは意外。
ぼくらはただほかの人々とともに生起させる世界だけをもつのであり、それを生起させることを助けてくれるのは愛だけだ
という言葉だけを取り出してみても、うさん臭く感じるだけかもしれないが、細胞のオートポイエーシスから始まって、社会に至るまでの探求の果てにあるものが「愛」だ、という構成は、よくできた小説のように美しい。正直、ぐっときた。
しかも解説によれば、この著者たちは軍部のクーデターによる虐殺から逃れて、母国チリを離れ、研究を続けていたという。社会に対する絶望と希望。倫理の基礎を探し求めようとする知性の戦いの成果が、このような美しい形でここにあること自体に、なんだか感動してしまう。この希望を見出そうとする意思を受け取るだけでも、読むだけの価値はある。
もちろん、システム論としてのオートポイエーシスについて、何かしら聞いたことのある人や、認識論の迷路に迷い込んだ人、モラルの問題が気になっている人にも、結構お勧めかも。浅田彰が序文だからといって、馬鹿にしては(?)いけない。
そうそう、一人称を「ぼく」「ぼくら」と訳した訳者の英断に拍手。これが「私」「我々」だったらまったく別の本になっていただろう。
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