シュレディンガーのアヒル

著者
林 一
出版社
青土社
発行日
1998.1.25
メモ記入日
1998.2.25
〈メモ〉
 帯の「軽妙洒脱、16編の科学的小咄」という惹句そのまんま。ただし、科学的、だけではなく、相当程度に文学的でもあるのだけれど。
 何というか、読み手の教養を要求する本なので、読んでニヤリとできると気持ちいいけど、何だか分からないと無性に寂しかったりする。自分の文学的教養の無さがつらい……。虚実ないまぜ、というか、後書きにある通り、「引用、利用ないし誤用」の嵐。とはいっても、「小咄」なので、『帝都物語』みたいに肩ひじ張った話ではない。むしろショートショートって感じ。
 個人的には、ハムレットを読み替えまくって数学論(?)してしまった「数学王子ハムレットの日記」や、滝廉太郎と日本語ローマ字化論を絡めて物語にしたててしまった「春高楼の花の宴」、夏目漱石と温泉学の関わり(?)を描いた「人生いたるところ青山あり」なんかがお気に入り。
 実は、パロディとしての面白さの影に、著者の歴史に対するシニカルな、けれどどこか温かい視点がほの見えるところが、真の魅力だったりするかもしれない。すぐに読めるので、図書館で見つけたらぱらぱら眺めても損はないと思うよ。うん。
 ちなみに書き下ろし以外の作品の初出は、『数理科学』『イマーゴ』『ユリイカ』。なるほど、そういう感じかも。


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