歴史とは何か
- 著者
- E.H.カー
- 訳者
- 清水幾太郎
- 出版者
- 岩波書店
- 発行日
- 1962.3.20
- メモ記入日
- 1998.5.5
〈メモ〉
何か、1961年の段階でこういう本が書かれてしまっている、ということに驚いてしまう。最新の学問論と比較しても古くささを感じない。
歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのであります。
という歴史の定義を見るだけで、未だに現代思想の仮想敵(?)として登場する主観−客観という認識の枠組みを、著者が容易に乗り越えていることがわかる。恐るべし、60年代。
歴史(学)というものを、非常にダイナミックな、時代の変化に応じて変化していくものとして描きだした上で、それでもなお「進歩」はあるのだ、と語る著者の心意気が、泣かせる。保守主義にも神秘思想にも回顧趣味にも陥らず、合理主義者でありつつげようとすると、必然的にこういう地点にたどり着くのかもしれない。
科学史や科学哲学の成果を取り込んでいるところもポイントか。基本的には、歴史(学)と自然科学の方法が、一般に認識されているよりも、似通ったものである、という話なのだが、一方で、「学」のあり方そのものへ向ける視線の重要性という点でも、共通するところがあるように思う。
その他、「将来、過ぐる十年間にケンブリッジ大学が生んだ最大の歴史的著作と見るであろうものは、全く歴史学科の外で、しかも、何一つ歴史学科の助力を受けずに書かれたものであります。私が申しますのは、ニーダム博士の『中国の科学と文明』のことであります。」というくだりとか、ポパー批判(ポパーのいう「歴史主義」について)が、痛烈だったりするところも愉快。
最近、軽い新書に慣れてしまっていたので、一段落が長いのにちょいとびっくりしてしまったけど、内容が濃いのでしょうがないか。中途半端な口語体の翻訳はちょっと気になるけど。
そうそう、「個人に対する道徳的断罪を熱烈に主張する人々は、無意識のうちに、集団や社会の全体のためにアリバイを作ることが多いのです」という言葉は、結構、重たいかもね。
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