日本社会の歴史 上・中・下

著者
網野 善彦
出版社
岩波書店
発行日
1997.4.21(上) 1997.7.22(中) 1997.12.22(下)
シリーズ名
岩波新書(新赤版)
メモ記入日
1998.3.16
〈メモ〉
 結構読むのに時間がかかってしまった。売れているのは良いことだけれど、どれだけの人がちゃんと最後まで読んでいるのだろう。ちょっと不安。簡潔ではあっても簡単ではなく、明解ではあっても易しくはない。新書だと思ってなめてはいけない。読むにはそれなりの覚悟が必要だ……って、なめてたのは私か。反省。
 タイトルは「社会の歴史」とあるが、(著者も認めている通り)記述の中心は政治史にある。その点では、網野節を期待する向きは肩透かしを食らわされるかもしれない。いわゆる「社会史」的な部分もあるにはあるが、むしろ、あっちこっちの書評で書かれている通り、「統一され均一化した日本」という幻想を徹底的に叩き潰していくところが読みどころ。政治史を記述の中心に置いたのも、アジア地域の諸国家との関係や、社会的習俗だけでなく、法制度や政治制度についても地域差が大きく、複数の王権が常に緊張関係にあった日本という地域社会の成り立ちを描き出すための戦略と見るべきだろう。
 「万世一系の天皇に率いられた統一国家日本」という歴史的フィクションの再浸透に対する、歴史家としての危機感が書かせしめた、という感じもなきにしもあらず。色々な事情で刊行が遅れていたようだが、今、この時期に出した、という意味はそこにあるのだろうなあ、やっぱり。そういう意味ではプロの歴史家としての誇りを掛けた本かもしれない。
 近世以降については、「展望」という形でざっと触れているだけなのが惜しいが、明治維新への批判的視線など、司馬遼太郎礼賛が延々と続いているだけに、重要だと思う。本当は近代まで書いてほしいけど、問題意識が明解なので、じゃあ残りの部分は宿題ね、同じようにやってごらん、といわれているような感じもする。そういうわけで、誰かちゃんとやるように。


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