絵すごろく展 遊びの中のあこがれ

出版者
江戸東京博物館
会期
1998.2.10〜3.22
メモ記入日
1998.5.5
〈メモ〉
 江戸時代から現在に至る「すごろく」の歴史を概観し、そこからそれぞれの時代意識を読み取っていこうとする展示会の図録。現代のすごろくとして何点か展示されていたのだけれど、参考出品だったらしく、図録からは省かれている。ちょっと残念。『怪物くん』すごろくとか、『アタックNo.1』すごろくとかもあったんだけど。
 会場では、展示品を巨大な大きさに拡大したものを床に張り付けて、人間をコマにしたすごろくができるようになっていたり(ちゃんと遊び方の解説も置いてあった)、川端龍子が描いた『少女の友』の付録のすごろくのあがりのコマ(「御馳走島」という果物やお菓子でできた小さな島なのだ)を実物大ジオラマで再現してあったり、工夫がこらされていた。やるな、江戸東京博物館。
 江戸時代の仏教思想を背景にした浄土双六から、現世における憧れを背景にした道中双六への変化、明治から対象へと時代の社会的変化を背景に変わっていく出世すごろく、少年雑誌、少女雑誌の付録となったすごろくからうかがう少年・少女の夢の変化。こうしてみると、すごろくは近世・近代社会史の一級の資料であることがよくわかる。
 歴史資料としてだけではない。葛飾北斎、歌川国芳、歌川広重、小林清親、水野年方、鏑木清方、小杉未醒、武井武雄、岡本帰一、高畠華宵、蕗谷虹児、北沢楽天……などなど。それぞれの時代を代表するイラストレーターたちの作品として楽しめるのがまた嬉しい。いや、奥が深いわ、これ。古書価が高いのも納得。
 巻末には、井上勲「出世双六――没落の不安をかかえて骰をふる」岩城紀子「小さい双六の時代」新田太郎「あこがれの島――絵双六と想像力」米崎清実「東京名所双六について」の4つの小論が収録されている。2〜4ページという長さなので、論文、というよりは、むしろエッセイという感じ。専門の研究者がいない、という条件もあるだろうけど、広い層に図録を読んでもらおうという方向を探っているのかな、という気も。勘ぐり過ぎかな?


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