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タイトル50音順リスト
著者別リスト


SF読書メモ(1997年10月〜12月)


西の善き魔女 1(1997.10.4)
SFマガジン 1997年11月号(1997.11.1)
グイン・サーガ外伝 11 フェラーラの魔女(1997.11.1)
戦争を演じた神々たち(1997.11.1)
急進 真珠湾の蹉跌(1997.11.1)
スリピッシュ! 東方牢城の主・盤外の遊戯(1997.11.11)
SFマガジン 1997年12月号(1997.11.16)
グイン・サーガ 58 運命のマルガ(1997.12.11)
西の善き魔女 2 秘密の花園(1997.12.11)


西の善き魔女 1 セラフィールドの少女

 荻原規子
 中央公論社 1997.9.25
 C・NOVELS

(メモ)
 牛島慶子の表紙に引きつけられてよく見たら、おいおい、あの荻原規子ではないか。とうとう新書ノベルズに進出か……。ある意味、当然の展開ではあるのだけれど、今までの独自のポジションから離れて、どう勝負していくのか、少々気になるところではある。
 とりあえずは、典型的(?)異世界ファンタジー(こっちの世界とのつながりをちらちらとほのめかしてはいるけどね)。主人公の気丈な少女を含め、少年・少女たちの描写は、相変わらず生き生きとしていて、嬉しくなってしまう。人の生き死に、ということのもつ意味を強く意識しているところも変わらず。政治の持つ冷たさをきっちり押さえている点も変わらない。
 ただ、読者サービスは「児童文学」で書いていた作品に比べると、ちょっと過剰かな、という気も。まあ、そんなに気にはならないけどね。確かな描写力も健在。
 とりあえず、プロローグ、という感じなので、評価は保留。いいスタートは切っていると思う。後はちゃんと完結まで続いてくれるのかどうかだけが気がかりだなあ。書き下ろしで分厚いの出してもらった方が、精神衛生上はいいよね。(1997.10.4)

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SFマガジン 1997年11月号(38巻11号)

 早川書房 1997.11.1

(メモ)
 ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』刊行100周年記念「真紅の蜜――ヴァンパイア・ホラー特集」……って、100周年だったのか。知らなかった。
 好みに合ったのはノーマン・パートリッジ「鮮血のレッドリバー・バレー」(伊藤典夫訳)。「『吸血鬼ドラキュラ』異聞・生き延びたクィンシーは故郷テキサスへと帰るが……」という話。元ネタを知らない私でも、この喪失感と情欲のないまぜになった感情の嵐、そして絶望的(?)かつ鮮やかなラストは結構くる。
 タニス・リー「勿咬草、あるいは炎の花」(木村由利子訳)は、「野蛮なるヴァンパイア一族の王子と人間の娘――その哀しき愛のかたち」というわけで、異種族間悲恋ものの佳作。幾重にも因縁を編み上げた構成がお見事。落ちも美しいし。
 あとはロバート・R・マキャモン「ミラクル・マイル」(田中一江訳)かなあ。「ヴァンパイアに蹂躪された世界、思い出の地にたどりついた一家は……」というわけで、落ちは途中で見えちゃうけど、それでも、淡々と滅びの情景が描かれるとそれだけでぐっときてしまう。
 しかし、一番の収穫は、『吸血鬼ドラキュラ』が普通の小説ではない、というのを知ったことだったりする。そうか、そういう構造の話だったのか。ううむ。なんだか読んでみたくなってしまったぞ。
 特集以外ではSF大会(あきこん)レポートなどもあり。案外元気な雰囲気でなにより、とか思ったりする。
 あ、いけね。最高に面白かったのはやはり、てれぽーと欄における梅原克文の逆襲であろう。いや、愉快愉快。論争をエンターテイメント化してしまっている段階ですでに梅原氏の戦略的勝利、という感じではあるよね。(1997.11.1)

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グイン・サーガ外伝 11 フェラーラの魔女

 栗本薫
 早川書房 1997.10.15
 ハヤカワ文庫JA

(メモ)
 読後呆然。
 おいおい、こんなにつまらなくていいのか? 一応今回のクライマックスであるはずの後半の人蛇との対決はほとんど盛り上がらないで終わっちゃうし、前半のメインだった魔と人のカップルの話は、あまりも通俗的お涙頂戴だし、魔界都市(?)フェラーラの描写はいまひとつだし、タイトルになってる女王はもっとおっかないのかと思ったら案外簡単にグインの手にのっちゃうし、目玉のグインの謎解きは何かちょっとばらしすぎで興ざめだし(もちっと騙してよー)、何だか褒めるところがない……。外伝なんだから、1巻毎に少しは独立して楽しませてほしいものなんだけどなあ。どう考えても次の巻へのつなぎでしかないじゃん。わざわざこの程度の話で1冊使うかね。
 前の外伝10巻が、まがりなりにも原点回帰的指向が見えただけに、あまりといえばあまりな展開に愕然という感じである。もっとゆっくり書いてもいい、質を上げて欲しい、とこれほど切実に思ったのは初めてだ。
 でも次も買うんだろうな、きっと。ちぇっ。(1997.11.1)

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戦争を演じた神々たち

 大原まり子
 アスキー 1997.7.14
 ASPECT NOVELS

(メモ)
 珠玉の連作短編集。時々、テーマそのまんまらしき言葉がいきなり、まんまで出てくるのが減点要素ではあるけど、基本的に、アイデアもグーだし、落ちもいい。
 ……実は、中沢新一による解説が結構、力の入った代物で、下手なこと書いてもあんまり意味がないのであった。敢えて書くなら、個が個でなくなる瞬間を、「暴力」を鍵にして描く、というのが基調にある、という感じかなあ。帯の「戦争とSMこそがわれわれの文化だ!」という引用は、結構いいとこ突いていると思う。
 個人的お気に入りは、「宇宙で最高の美をめぐって」と「けだもの伯爵の物語」かなあ。どっちも結構、オーソドックスなSFかもしれない。どちらも人間ドラマになりそうで全然ならないところが好み。「楽園の思いで」は、全体のイメージは凄く好きなんだけど、最後の一言が直接的すぎてちょっと、という感じ。
 とにかく、この時期の好調ぶりが持続して、『アルカイック・ステイツ』に結実することになる、というのがよく分かる。いやあ、ちゃんと継続して追っ掛けておくべきだったなあ。反省。(1997.11.1)

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急進 真珠湾の蹉跌

 谷甲州著
 中央公論社 1997.10.25
 覇者の戦塵1942
 C・NOVELS

(メモ)
 おやまあ、この展開では危ないか、と思っていたらとうとう日米開戦してしまった。1年遅れだけど。あとがきに作者本人が書いている通り、今回は技術者話がないのが惜しいといえば惜しいけど、電探ネタと潜水艦ネタが軸なところは、相変わらずで嬉しい。つい許してしまう。
 事実上の上下巻らしく、翌月には次の巻が出るとのこと。なんと、真珠湾とミッドウェイという太平洋戦争の二大看板(?)を一時に片づけるつもりらしい。ううむ。凄いといえば凄い展開だな。
 戦記的な部分がどんどん主になってきていることもあって、後方の動きや、政治的な動きに対する書き込みがちょっと薄い感じがしてしまう。前線の一兵士の視点にあくまでこだわるところは実にいいんだけどね。バランスが難しいところだよなあ。まあ、続くミッドウェイ編に期待。
 ところで、今回、事実上はそうなのに形式上は前後編にしなかったってのは、やっぱり商売上の必要なんだろーか?(1997.11.1)

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スリピッシュ! 東方牢城の主
スリピッシュ! 盤外の遊戯

 今野緒雪
 集英社 1997.5.10(東方…) 1997.11.10(盤外…)
 COBALT SERIES

(メモ)
 のんびりしている内に、2冊目が出てしまったので慌てて読んだ。まあ、コバルトはこういう時、あっというまに読めるから嬉しい(?)よね。
 1冊目(東方…)は、シリーズの中心になる人物をそのまんま主人公にはせず、第三者の視点から見ていくという趣向。その中心人物の設定を軸にした謎解き的な仕掛け(謎自体はそんなに謎でもないんだけど)で、結構読ませる。と、書きつつ、実は一番大きいのは、この巻の主人公である少女の成長ものとして読めるというところのような気もするな。
 が、2冊目(盤外…)はシリーズものとしての弱さがもろに出てしまった。キャラクターで押していくのはいいんだけど、露骨にキャラクターの性格紹介ものになってしまうのは、読んでて辛い。登場人物間の関係に変化がおきるとか、そういうのがあるならまだしもなんだけど。一番おいしいとこは先送り、というのが見え見えなのは仕方ないが、もうちょっとこの巻ならではのポイントはないものか。
 で、ついつい同じ作者の「夢の宮」シリーズとつい比べてしまう。実は「夢の宮」の、世界設定は共通だが、キャラクターは1冊ごとに使い捨てるという形式こそが、作者の力を引き出していたんではないかいな。あちらには出し惜しみはないし、同時に無駄もない。キャラクターに頼るシリーズものは作者に楽をさせてしまうってことか……。まあ、たまには楽をしたいというのも分かるけどさ。
 とりあえず、普通のキャラクター重視シリーズものが好きな人にはいいかもね。少なくとも、2冊目に+αはないけど、そこそこおいしいキャラではある。でもやっぱりそれ以上の何かが欲しいんだけど……。(1997.11.11)

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SFマガジン 1997年12月号(38巻12号)

 早川書房 1997.12.1

(メモ)
 何と「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア特集」(監修:伊藤典夫)。
 晩年の作品「いっしょに生きよう」(伊藤典夫訳)は、「不思議な共生生物と接触した地球人の調査隊は……」という何だか50年代の香りがする設定。伊藤典夫氏が解説で書いているように、アップビートなノリがいい。というか、変だな、こりゃ。妙に暗い部分と、作品全体の明るいトーンが奇妙なコントラストを生んでいる。まあ、ティプトリー特有の、どこか醒めた寂静感は変わらず。
 「リリオスの浜に流れついたもの」(朝倉久志訳)は、連作集『キンタナ・ロー』の中の一篇とのこと。「カリブ海をわたる旅人の奇妙な体験」といってもなんだかよーわからんが、読んでも正直わかったような、わからんような。けだるい、幻想的な雰囲気が、結構今風かな、という気もする。
 アリス・シェルドン「SFとファンタジイを書く女」(佐田千織訳)は本名で発表されたエッセイ。「ネズミをぎゅっとつかめば、チューチュー鳴き声を上げるだろう。/それと同じで、人生に押しつぶされそうになれば、わたしも鳴き声をあげる。私の鳴き声は書くことだ。」という書き出しからしてかっこ良すぎる。SF小説という表現方法を何故選ぶのか、ということが明確に書かれていて、なんだか感心することしきり。それにしても文章のスタイル自体が恰好いいところが、やはり凄いのであった。
 あと、いろんな人が選んだ「ティプトリー、この3篇」というコーナーで、鳥居定夫氏が「われらなり、テラよ、奉じるはきみだけ」を挙げていたのがちょっと嬉しかった。私もあれ好きなんすよ。
 著作リストも当然ながらあり。短編の初出がないのが惜しいって感じか。70年代半ばまでの作品はほとんど翻訳されてるんだなあ。これから、80年代の作品の紹介が進むのかな?
 もう一つの特集は「クリスマスSF競作」。
 ジーン・ウルフ「ツリー会戦」(柳下毅一郎訳)は、「クリスマス・イブの夜、もうすぐ新しいおもちゃたちがやってくる……」というのだけではなんだかわからないが、結構ストレートなアイデアストーリー。ブラックなオチもニヤリとさせていい。ジーン・ウルフって『新しい太陽の書』の小難しいイメージしかなかったので、ちょっと驚いた。こういうのも書くんだ。
 コニー・ウィリス「もうひとつのクリスマス・キャロル」(宮内もと子訳)は、「不運つづきのわたしの前に聖霊たちが現れた――現代の『クリスマス・キャロル』」というあおり文句に騙されると、結構つらい。いかにも現代アメリカの家族ものって感じで、救いがない。それでも明るく耐えようとする娘の健気さが泣ける。これがSFなの?と聞かれるとこまっちゃうかもしれないが、まあ、いいんじゃないのかなあ。個人的にはめるへんめーかーのイラストがなんだかいい感じ。
 そういえば、ジュディス・メリルって死んじゃったんだなあ。全然知らなかった。追悼で『年刊SF傑作選』の再版とかしないかな、とか考えてしまう自分が情けない。うーむ。追悼文では伊藤典夫「心残り」が、後悔を生々しく綴っていて、痛々しくって良かった(って表現も変か……)。
 あと、連載の伊藤卓「亜州電影娯楽館」は「香港アニメ新世紀」と題して香港のアニメ長編映画の状況を紹介。結構、あちらも熱いようで、日本でもじゃんじゃか公開されるようになると楽しそう。(1997.11.16)

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グイン・サーガ 58 運命のマルガ

 栗本薫
 早川書房 1997.11.15
 ハヤカワ文庫JA 590

(メモ)
 ううむ。イシュトVSナリスという(本来なら……)美味しい組み合わせ。キャラクターの組み合わせが全てであって、他には何もない。まあ、そのキャラクターもみんなそろって性格に変容をきたしているので、あとはもう、ナリスという記号や、イシュトという記号にうっとりできるかどうかで、全て決まり、という感じだな。
 話の展開自体ははっきりいってどうでもよい。盛り上げるポイントが、ストーリー展開ではなく、会話の展開のしかたにある、という点を見ると、芝居の経験が大きな影響を与えたであろうことは容易に想像がつく。善し悪しは別にして、だけど。まあ、宝塚的な舞台だと思って読めば、結構楽しいような気もする。
 まあ、ここまで来たら、最後まで見届けるのが自分の使命、という気分になってしまうなあ。ちょっとヴァレちゃんな気分。そうか、作者=ナリス、と思って読むと、読者へのメッセージは明解かもしれん。ううむ。(1997.12.11)

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西の善き魔女 2 秘密の花園

 荻原規子
 中央公論社 1997.11.25
 C・NOVELS

(メモ)
 しまった! 今度は学園ものか!
 期待のシリーズ第2弾、早くも登場、だけど次はこんなに早く出ないってさ。まあそりゃそうだろうなあ。
 ライバルも登場して、盛り上がるといえば盛り上がるが、しかし、1巻の切迫した展開に比べると、何となく一休み、という感じは否めない。まあ、やおいと統治論を絡めるというロジックの展開とか、楽しいんだけどね。
 そんなこんなで、全寮制女子校(異世界だけど、こうとしか表現のしようがない)という舞台を使いつつ、さりげに男女の性差の問題を取り込んでくるところが、この作者らしいところではある。こういうところは上手いよなあ。
 楽屋落ち的な部分で楽しみ過ぎるとバランス壊れそうだけど、そうはならないことを祈ろう。次はいつかなあ。(1997.12.11)

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