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展覧会メモ(1997年7月〜9月)


モダン・デザインの父 ウィリアム・モリス(1997.7.8)
世界のかたち 日本のかたち(1997.9.14)
ケイト・グリーナウェイの世界展(1997.9.14)
古絵図と古地図(1997.9.14)
高橋真琴展 永遠の少女たち(1997.9.27)


モダン・デザインの父 ウィリアム・モリス

 東京国立近代美術館
 1997年5月28日〜7月13日

(メモ)
 ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館で、去年行われた没後100年展を日本に持ってきたもの。でも、出品作品の番号が飛んでいるところがあるところを見ると、全部ではないみたいだなあ。
 とにかく女性客が多い。男性というだけで、少々肩身が狭い感じ。モリスファンはやはり女性に多いのか……。
 基本的に時代別配置。各展示品には解説は付けず、各時代の頭に簡単なその時代の説明を行う程度。これだと、説明を読まない分、人の流れが速い。でも、その簡単な説明の前で一生懸命メモを取っている若い女性が多数。展示品の前ではメモを取っていないようだったので、学校のレポートの課題か何かかな? 図録買った方が手っ取り早いと思うんだけどなあ。
 私のお目当ては、やはり写本とケルムスコット・プレス。
 前者は3点のみ。うち1点は若いときの習作で、いかにも失敗作、という感じがかえって面白い。ここから美しい彩色写本まで、相当の苦労があったことが想像できる。残りの二つは、美しい……。植物文様がしっかりモリスである。
 ケルムスコット・プレスは全点、というわけにはいかず。そりゃそうか。主に大阪美大の所蔵本を展示。黒の美しいボーダーを見て、「これ手で塗ったのかしら」とつぶやくおばさんがいたりして、「印刷したに決まっとろーが」と心の中でひそかにつっこみを入れる私である。
 最大の収穫は、飾り文字などのデザイン原稿などが見られたこと。『チョーサー著作集』の豚皮装版(モリサワ所蔵本)も、目の保養だなあ。しかし、当然というかなんというか、『チョーサー著作集』をケルムスコット・プレスの頂点とする視点は、新味がちょいと足りない気も。もうちょっと、活字デザイン関連の資料も出して欲しかった。あと、完成しなかった、『フロワサール年代記』のボーダーや飾り文字のデザインが、それまでのものと異なる指向を持っていた、というのが面白かった。最後まで変化し続けた人なんだねぇ。
 図録には(恐らくは)書き下ろしの日本人による論考も収録。ロンドン展の図録の単なる翻訳ではないらしい。その中では、薮亨「『美しい書物』についての伝説」が、モリスの書物製作者としての活動の経緯を簡単にまとめていてありがたい。もうちょっと長くてもよかったけど。各展示品の解説は、直訳調が多く、やや読みにくい。特に、ケルムスコット・プレスがらみのところは、構想された順番と、実際に刊行された順番が錯綜していて、理解困難な部分があった。ちょっと不親切だなあ。
 その他、普通の人には主なお目当てとなるだろうモリス商会としての作品なども結構、興味深い。実は、出展作品の中で、モリス自身がデザインし、自身が手ずから製作しているものは、それほど多くはない。にも関わらず、モリスが選んだデザイナーがデザインし、モリスが選んだ手法で、モリスが選んだ職人が作った結果、トータルとして見るとモリスの作品となっているというところが、ちょっと普通の芸術家とは異なるところだろう。デザインするということは、ものを作る全体的な視点を示す、ということなのかも。
 会場で売っていたので、けやき美術館『モリス祭りへの招待』(1991)も購入。91年時点のものではあるが「モリス関係ブックリスト」と、「日本でのモリス研究文献目録」がお目当て。後者は、牧野和春が昭和37年に作成、編者没後、品川力が増補し『みすず』1976年12月号に発表したものに、さらに伊藤左千夫が追補を加えた、というもの。こういうのがありがたいんだよなあ。(1997.7.8)

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世界のかたち 日本のかたち
 ――渡辺紳一郎古地図コレクションを中心に――

 神奈川県立歴史博物館
 1997年6月28日〜8月31日

(メモ)
 図録が手元になかったので、感想を書いてなかったら、なんだか忘れてしまったぞ。困った。
 神奈川県立歴史博物館の開館30周年記念特別展。しかし、副題にもなっている渡辺コレクションは、神奈川県立歴史博物館の所蔵品というわけでもないようだ。このあたりの経緯は不勉強で不明。寄託資料なのかな?
 全体は5部構成。

  1. 世界の広がり
  2. 地域へのまなざし
  3. 日本――この国のかたち――
  4. 都市の諸相
  5. デザインとしての地図

 という構成になっている。日本とヨーロッパの地図がバランス良く選ばれており、コレクションとしての性質の良さがうかがわれる。また、全体的にヨーロッパの地図製作者へも目配りが効いている点が印象に残った。この手の展示会としては珍しいような気がするんだけど、単に私が知らないだけ?
 16世紀中期から17世紀にかけてのオランダの地図黄金時代を支えたメルカトルとオルテリウスの地図や、17世紀後半から地図製作の中心となったフランスの地図などが展示されており、ヨーロッパ製作の地図の歴史を概観できるように構成されていて、こりゃ大変勉強になってしまった(が、あんまり身についていないのがつらいところ……)。
 日本地図もしっかり歴史的ポイントを押さえた展示なのは当然というべきか。
 最も特徴的なのは、伊万里焼や源内焼などの地図皿を中心に、地図を意匠としてあしらった品がかなりの数展示されていたこと。多分、これがこのコレクションの特徴でもあるんだろう。
 図録もカラー図版多数で嬉しい。簡略な地図史年表などもあり。
 ボランティアによる解説(ちょっとたどたどしいところが微笑ましかったりする)など、積極的試みも行なっており、素人向けにもアピールしようという姿勢に好感を持った。地域の博物館として今後も頑張って欲しいと心から思う。(1997.9.14)

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ヴィクトリア朝の絵本画家
 ケイト・グリーナウェイの世界展

 渋谷・東急百貨店本店
 1997年8月6日〜18日

(メモ)
 うーむ、これも見に行ってから随分時間がたっちゃったなあ。ままいいか。
 とにかく、デパート展にしとくのは惜しい内容でびっくり。
 ケイト・グリーナウェイ(Kate Greenaway,1846-1901)生誕150周年記念とのことで、軽井沢絵本の森美術館を皮切りに、全国を回るもの。基本的にNHKプロモーションと聖徳大学が中心らしい。展示品も聖徳大学の所蔵品が中心。本当に、聖徳大学って何物なんだ? これだけのものを集めているとは、ちょっと凄すぎるぞ。
 展示はグリーナウェイが活躍する以前のイギリスの絵本の歴史の概略から始まって、グリーナウェイの代表的作品を大体年代順に見ていく、という構成。ホーンブックというイギリスの初期の子供向けのアルファベットなどの学習用の本や、本当に小さな、チャップブックと呼ばれる簡易なお話本など、存在自体初めて知ったようなもの。いきなり勉強になってしまった。その上、他の代表的なイギリスの絵本画家についてもちょろっと紹介されていて、またまた目が点。この世界、奥が深いわ。
 代表作ではやはり「窓の下で」Under the Windowが印象に残った。しかも図版が小口木版だというのを知ってまたびっくり。小口木版でこういう表現もできるとは、全然知らなかったぞ……本当に奥が深いなあ。
 ジョン・ラスキンとの交流や、水彩画で画壇に認められようとして失敗したことなど、やや暗い部分にも光を当てるあたりのバランス感覚もなかなか。
 しかも図録がケイト・グリーナウェイの世界への入門書として独立して読めるような力作。カラー図版満載。解説は梅花女子大学教授の三宅興子氏が全編担当しているとのこと。巻頭には同じ三宅氏による簡略な伝記「今、ケイト・グリーナウェイと出会う」を収録している。
 この内容なら、Bunkamuraでやってもバチはあたらなかったんじゃないの?、という感じだなあ。なんだか、もったいない。(1997.9.14)

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古絵図と古地図

 神奈川県立金沢文庫
 1997年7月31日〜9月28日

(メモ)
 鎌倉幕府執権北条家の菩提寺である称名寺境内、という立地条件が実にいい雰囲気の金沢文庫。いつもいい展示やってるんだけど、本当にすいててもったいないよなあ。まあ、独り占めみたいになって嬉しいと言えば嬉しいけど。
 基本的に金沢文庫が持っている地図をある程度グループ分けして並べた、という感じの展示で、歴史的流れとかそういうのを把握するのには向かない感じ。展示点数もそれほど多くはないし、一点一点の面白さを味わっていくのに適した展示かもしれない。それを意識してか、解説が丁寧で、どこが見どころかを分かりやすく示そうとする姿勢がうれしかったりする(順路は分かりにくいんだけど、結局順番はどうでもいい展示なのだな)。
 見どころはやはり、重要文化財の「日本図」。仁和寺伝来の日本図と並び、現存するものでは最も古い時代の写本、とくれば、岩波新書の応知利明『絵地図の世界像』を読んだ人ならピンとくるはず。蛇体が日本をぐるりと取り囲んだ、あの西半分しかないあれである。実際見てみると、案外小さいものだが、やはり現物を目の前にするとなんだかそれだけでドキドキしてしまう。やはり実物の持つ力は大きい。
 他にも、伊豆七島全体を一図に収めた伊能図など、個別に結構面白いものが出ていて退屈しない。
 図録はモノクロ図版中心だが、パラパラ眺めて楽しめるような構成になっており、明らかに素人を意識した作り。県民に親しまれる活動を探ろうとしているのか、という気もする。こういうのは、かたさとやわらかさのバランスが難しいよなあ。
 それにしても、金沢文庫は、案外、いつ何をやっているのかを把握しにくいのが困りもの。もうちょっと、積極的に宣伝してもいいと思うんだけど。せめてホームページは作ってほしい……。(1997.9.14)

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高橋真琴展 永遠の少女たち

 弥生美術館
 1997年7月3日〜9月28日

(メモ)
 こ、これは凄い。凄すぎる。
 少女マンガに革命をもたらし、イラストレーターとして少女像を描き続ける高橋真琴の仕事を一望に見渡せるという画期的展示会。
 貸本時代の貴重な作品(ご本人の所蔵品なんだけど、状態がえらくいい)から、50年代末から60年代初頭にかけて『少女』を中心に発表した連載マンガ作品(特に『プチ・ラ』はストーリー紹介付きで原画が大量に展示されていた)や、『デラックス・マーガレット』を中心にした少女マンガ誌の表紙の仕事、絵本やイラスト、さらには筆箱や色鉛筆などのグッズ類まで、その仕事の全体が手際よくまとめられていた。
 しかも最後には高橋真琴先生ご自身が画集にイラストとサインを入れてくれるという大サービス付き! ここには女性ファンが何人も並んでいて、ちょっと嬉しくなってしまった。
 残念なのは、詳細な年譜や不完全版とはいえ作品リストが作成されていながら、図録がない、というところ。まあ、画集があるから、という判断なのかもしれないけれど少々がっかり。そのうち何かの形で発表して欲しい。
 併設の竹下夢二美術館では、同じ期間で「雑誌の愉しみ展――身近な芸術にみる大正ロマン」を開催。こちらは雑誌を中心としたグラフィック・デザイナーとしての夢二の仕事が丁寧にまとめられていた。図録(というほど図はないんだけど)には、図の無さを補って余りある夢二の雑誌における仕事の全リストを掲載。こりゃ凄い。(1997.9.27)

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